2012/09/03

戦略検討 - 「プロスペクト理論」(1)モデル化



さて前回は、「ゲームのモデル化」のために、「行動経済学」なるものについて整理した様子を書きました。今回は、実際に「FXトレーダ」をモデル化するにあたり、「行動経済学」の「プロスペクト理論」をあてはめて考えている様子について書いてみたいと思います。


まずは前回書いた、「プロスペクト理論」について理解が不十分だった点を補足。
具体的には、前回記事の「『価値関数』のグラフ」について。
#自分自身が咀嚼しきれてなかった。。。


【「価値関数」の補足】
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前回記事で掲載したグラフはコレ。

まず前回記事で、「参照点」という重要な概念が抜けてた。つまり、ある意思決定をする時、自分の現状がグラフ上のどこにいているかを現す「参照点」からの差分で考える。
※ 「参照点」は「現在地」みたいなイメージ。

具体的に数字を使って説明すると、500円の利益が出ている状態であれば、X軸の500の位置を指すし、-200円の損失が出ていれば、X軸の-200円の位置にいてると考える。

そしてその「参照点」を中心に、選択した行動によって得られるであろう利益/損失の結果、X軸上のどの点に移動するのかを求める。そして「参照点」「勝った時のX軸」「負けた時のX軸」の3つのポイントそれぞれから、前回紹介した「プロスペクト理論」の計算式であるv(x)を求めて、参照点(現在地)のY軸差分から、実際に取る行動が決まる。イメージとしては下図。

上図は、例えば500円勝っている状況で、「新規発注の買いをした場合」に勝った場合は+400円の利益負けた場合はー200の損失が想定される場合。X軸の「参照点」との差分で考えるので、以下の様な計算結果。(実際は、買いか売りかは計算上関係無い)

●X軸(客観価値)
 参照点   : +500円
 勝った場合 : +500円+400円=+900円
 負けた場合 : +500円-200円=+300円

上記値を「価値関数」で計算してY軸の値を求める以下の結果。
※λ(損失回避性)を2.25、β(感応度逓減)を0.5で計算。具体的な計算式は前回ブログ参照。

●Y軸(主観価値)
 参照点   : v(+500円)=+22円
 勝った場合 : v(+900円)=+30円
 負けた場合 : v(+300円)=+17円

すると、主観的な推定利得は以下の様になる
勝った場合の主観的利益 : v(+900円)-v(+500円)=30円-22円=8円
負けた場合の主観的損失 : v(+300円)-v(+500円)=17円-22円=-5円

すると、主観的な「利益」と「損失」を併せて考えると、以下の様な主観的な期待値になって、「新規発注買い」をした方が良いという主観的な判断になる。

主観的な期待値=勝った場合の主観的利益 + 負けた場合の主観的損失
          8円-5円=+3円>0円

あくまでも不確実な状態において、勝った場合と負けた場合の、「客観的」な推定利益/損失が判っていて初めて計算ができる。
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さて次の問題は、「客観的」な推定利益/損失をどうやってモデル化するのか、という点。
「プロスペクト理論」は、たとえ全ての正しい情報を知っていたとしても、不確実性が故に歪んでしまう人間の行動を説明するもの。なので、実際は無理だけど、「全ての正しい情報を知っているという前提」で一旦モデル化を考えてみた。

【「プロスペクト理論」による行動のモデル化】
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100人の実需による新規買い・売りの比率が事前に判っている状態で、実需は必ず約定されるという前提。全員が一旦ポジションを保有し、その後全員がポジションを解消し終わるまでに、どういう行動と損益になるのかをシミュレーション。なので買い・売りの比率は、ポジション保有している人数が全体の半分を超えた時点で、逆に賭けた方が有利になる。期待利益のイメージは、同じ方向に後から発注する人数が多い方が利益が高い。

図でモデルを表現すると以下の様な感じ。最初、「実需プレイヤー」を現す「グレーの丸」が全て一番左にあって、一定の決まった比率で買いか売りが決まって、右側に順次移動していく。全員が一番右の「ポジション保有中」に移動した後、「グレーの丸」は、解消オーダ(新規発注とは逆側)を出し始めて、一番左の「ポジション未保有」に戻っていく。
#以前の「ゲーム理論」のブログ記事からモデル化の方法を変えた。。 注文中の偏りが価格変動を生むというイメージ。
 やっぱりポジション保有している状態で新規オーダが無い状態で価格が変わるのはヘンなので。

●モデル設定詳細
 ・100人の実需プレイヤー(資金単位)がいるとする。
 最初は誰もポジションを持っていない状況から始まる。
 プレイヤーは新規発注の「買い」の確率(Pb)と「売り」の確率(Ps)が判っている。
 発注スピードは一定とする。注文が偏った場合、相対取引者となるトレーダーが
  都合よく一定スピード遅れて現れる。(結果、必ず偏った方向に価格変動後に約定する)
 計算時は「買い」・「売り」の場合それぞれで、「勝つ確率」と「負ける確率」を、
  主観的な確率価値π(p)で変換する。(前回ブログで記載)
 ・期待される利益・損失は以下の様に考える(ここがミソ)
  「新規買い」の場合 = 未発注プレイヤー数 × π(Pb) + 売り保有中プレイヤー数
  「新規売り」の場合 = 未発注プレイヤー数 × π(Ps) + 買い保有中プレイヤー数
 上記確率価値で求めた確率価値関数に基づく”半”主観的な期待値を、客観的な期待値
   と考えて、「価値関数」を計算し、主観的行動を求める。
 自分の行動自体は価格変動に影響を与えない
 「価値関数」/「確率価値」の計算で使う定数は書籍の例にならって、以下にした。 
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ここまでルールを決めたので、このモデルで行動にどういう「歪み」が発生するのかをシミュレートしてみたい。しかし、上記モデルは実需のモデルで、本来決めたいモデルは「負け組FXトレーダ」のモデル。つまり、シミュレートして得られるのは、例え正しい実需の行動が判っていても、「不確実性が故に発生する行動の歪みの性質」
 
さて、シミュレーションにあたっては、実需の新規「買い」/「売り」の確率をまずは決めたい。

【「買い・売り」比率を設定する】
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ためしに「参照点」をゼロに設定して、買い・売りの確率を変動させていくと、まだ実需のオーダが一つも発注していないにも関わらず、客観的判断とプロスペクト理論による主観的判断が異なって来ることを発見。

参照点を-100~+100まで50刻みに移動させていった時に、客観的判断と主観的判断が一致する「買うプレイヤーの比率」を5%刻みに求めてみたら、以下の様な感じになった。


新規発注の際の「参照点」を何とするのか、というのは色んな意見があると思う。
投入資金からの増減残高と考える事もできるし、新規発注は常にゼロで、ポジション保有中の含み損益増減だけが参照点を変化させると考える事もできる。

少なくとも、ここでの注目ポイントは、「参照点」がゼロの場合、買われる確率が75%以上じゃないと「買う」と判断されない点。そして、「参照点」がゼロから離れていくと、少し確率が高くなる事で、確率が高い方向に発注する傾向になる。元本割れかどうかの瀬戸際の場合は慎重度が高くなって、よっぽど高い確率で勝てそうじゃなければ手を出さないという思考になるのかもしれない。そして、既に利益が多く出ていれば心の余裕が出るし、大損状態であれば、元本がどうだったかなんてどうでも良くなる。
#大損している状態の場合、参照点が口座残高に変わっているかもしれないなぁ。。

さて、参照点をゼロとした場合、確率が75%以上じゃないとプレイヤーは確率が高い方に発注しない。だれもポジションを取ってない状態で、判断が異なる状態でシミュレーションしても面白くなさそうなので、75%が買いポジションになるという条件を設定する事にした。
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ここまで決まったら、客観的行動と「プロスペクト理論」による主観的行動が求まってその差分が収益の源泉になりうる。

なので次にする事は具体的な数字を使ってシミュレーションをしてみる事。

実際に、実需プレイヤーの保有ポジション数を遷移させていき、全ての実需プレイヤーがポジションを保有した後、全実需プレイヤーが順次決済をしていった場合に、客観的行動をするプレイヤーと「プロスペクト理論」による主観的行動をするプレイヤーで利得にどういう性質の差が出るのかをシミュレーションしてみる。



シミュレーションして

何がわかるかは判らないけど。。。



そして、「FXシステムトレード初心者奮闘記」は「戦略検討」に向けて、「プロスペクト理論」でのシミュレーション結果の整理・検討に続くのでした。
#運用中EAのパフォーマンスは、ついに元本割れ。。。1%弱程度だけど。。でも含み益は元本上回ってる!

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